京都地方裁判所 昭和36年(行)2号 判決 1969年3月29日
原告
京都国用生糸株式会社
代理人
中坊公平
前堀政幸
被告
上京税務署長
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実<省略>
理由
第一本件更正処分の存在
原告は、昭和三三年度分法人税について、昭和三四年七月三一日被告に対し、所得金額二、二四四、四〇〇円の確定申告をしたところ、被告は、昭和三五年四月三〇日付で、所得金額を一、八一六、五〇〇円とする、第一表記載のとおりの理由による本件更正処分をなしたこと、そこで、原告は、同年五月三〇日付で、被告に対し、再調査請求をしたところ、被告はこれを棄却する旨の決定をしたので、さらに、原告は、同年七月二五日付で、大阪国税局長に対し、審査の請求をしたが、昭和三六年一月九日付をもつて、これを却下する旨の決定をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。
第二本案前の申立について
ところで、被告は、原告の訴はその利益を欠く不適法なもので、却下されるべきものと主張するので、先ず、この点について検討する。
一本件更正処分の理由の行政処分性について
原告は、本件更正処分は実質上数個の行政処分からなり、実際上も法規上も、各理由毎に独立した行政処分が存在し、本件においても、別口利益金の認定は一個の行政処分として、たとえ、本件更正処分全体の数額が、申告額を下回るいわゆる減額更正処分であつても、なお、争訟の利益があると主張する。
ところで、一般に、抗告訴訟において、訴訟の対象とされるのは、行政処分の違法性の存否であつて、処分にあたつて行政庁の附した理由の当否は、前提問題として審査されるに過ぎないものと解される。
これを法人税法における更正処分の取消訴訟についてみるに、訴訟の対象とされるのは、申告にかかる当該年度における一体としての課税標準たる所得金額および法人税額に対する更正処分自体の違法性の存否であつて、課税標準および税額の由つて来たる理由の当否は、その算出の経過を示す範囲内において、審理の対象とされるに過ぎない。従つて、更正処分の理由が、かりに、違法であるとしても、当事者は新たな理由を訴訟上陳述することにより、更正処分の合法性を主張することが許容され、裁判所も、何ら更正処分の理由のみに拘束されるものではないと解される。このことは、法人税法において、被告の指摘するとおり、課税標準および税額を記載した申告書を提出すべきこと(同法第一八条第一項、第一九条第一項、第二〇条第一項、第二三条第一項、第二四条第一項等)を要請し、更正、決定、再更正等は、いずれも課税標準および税額に対してなされ(同法第二九条ないし第三一条等)、再調査、審査の各請求は、課税標準等に対して異議があるときになされること(同法第三五条)等の諸規定によつても明らかであろう。
これらの点に鑑みると、本件更正処分は、形式的にも実質的にも、一個独立の行政処分であつて、その理由をなす別口利益金の認定は、何ら行政処分としての性質を有しないものというべきである。
二、減額更正処分と訴の利益について
そこで、本件更正処分の取消を訴求する訴の利益について検討する。
前記認定のとおり、本件更正処分が、原告の申告にかかる所得金額を減額した、いわゆる減額更正処分であることは、当事者間に争いがない。
申告納税制度の下においては、租税債権債務関係は、納税者の自主的な申告によつて確定するのが原則であつて、更正処分等による変更は例外に属し、納税者としては、少くとも申告の範囲内において、租税債務も容認しているものと考えられる。
従つて、後の更正処分によつて、申告額が増加または減少された場合においても、更正処分の効力はその限度において生ずるのみであつて、申告自体の効力をも遡及的に消滅させるものではなく、変更後の残余部分についての申告と併存するものと解される。
それ故、本件更生処分は、原告にとつて利益処分であり、原告が、もしそれ以上に不利益を蒙つたとすれば、それは申告自体に基づく効果であつて、本件更正処分とは何らの係りのない事柄である。確定申告自体の違法を理由に租税債務額を争う方法によるならともかく、本件更正処分を対象にその取消しを訴求する訴の利益は全く存在しない。
第三結び
以上のとおり、原告の訴は、その利益を欠く不適法のものとして、却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(久米川正和 高橋史朗 大藤敏)